全日本ラリー選手権第8戦 MSCC東京ラリー2010

High Performance Brakes

全日本ラリー選手権第8戦 MSCC東京ラリー2010

開催日時:11月5~7日
開催場所:福島県東白川郡棚倉町周辺
スペシャルステージ本数:13本
スペシャルステージ総距離:67.99km
ラリー総距離:2デイ522.68km
SS路面:グラベル(非舗装路)
SS路面状況:ドライ&ウェット
勝田範彦が6勝目で有終の美を飾る

 2004年以来ずっと初夏に開催されていたMSCC東京ラリーは、今年は紅葉の季節に時期を移して開催された。金曜日の棚倉は放射冷却で冷え込み、レキに向かう車のフロントウインドウは霜に覆われた。ラリー期間中は最終日まで晴天に恵まれたものの、気温が低いこの季節は夏のような完全に締まったドライ路面にはならず、落葉と見まがう石でのバーストやこの地方独特の深い轍と荒れた路面に悩まされた選手も多かったようだ。 ラリーは金曜日にレキを行い、土曜日の早朝にスタート、日曜日の昼にフィニッシュするスケジュールで行われた。SSはデイ1に8本、47.44km、デイ2に5本、20.55km、総距離67.99km。シリーズのなかでもスプリント的要素が強いラリーと言えるだろう。福島と言っても関東圏に近いこのエリアではグラベル林道自体が少なくなっていることを考えると、全日本戦の中でSS総距離が最も短かいラリーとなるのもいたしかたないことなのかもしれない。
 JN4クラスは20台のエントリー。いつものレギュラー陣に加え、グラベルではレギュラーとも言える大嶋治夫ランサーエボIX、岩下英一ランサーエボIX、久々のラリー出場となる鎌田卓麻インプレッサGRB、東日本選手権の注目の若手、小舘優貴インプレッサGDB、アヤベマサシインプレッサGDBなど、見所の多い顔ぶれが揃った。ラリー車は早朝6時にルネサンス棚倉をスタートし、茨城県境の八溝山に向かう。SS1は真名畑八溝12.05km。いきなり、このラリー最長の勝負どころとなるステージだ。前半の約5kmは川沿いに比較的平坦な区間が続き、後半は八溝山を一気に駆け上がるヒルクライムとなる。また、前半は轍の中に尖った石が多くバーストに注意が必要だ。このSSをベストタイムで走ったのはチャンピオン、勝田範彦インプレッサGRB。1.8秒差の2番手に鎌田、更に奴田原文雄ランサーエボX、大嶋と、予想を裏切らないオーダーだ。好タイムが期待される一人だった岩下はバーストを喫し、足回りと駆動系に深刻なダメージを負ってしまった。
 SS2はSS1のリピート。早くも全SS距離の約3分の1をここで消化することになる。今度は奴田原がベスト、1.3秒差で鎌田、その4.7秒落ちで勝田のオーダー。このSSではSS1を4番手で走った大嶋がバーストし、SS中でのタイヤ交換を余儀なくされ、約5分ものビハインドで完全に勝負から脱落。このところ不調続きの石田正史ランサーエボXも前半でバースト、そのままステージを走りきったものの、1分近い遅れでこちらも上位争いから早々に姿を消した格好だ。SS3はサービスパークに隣接して設けられたギャラリーステージ、ルネサンス0.5km。ベストは奴田原だが、さすがにこの距離ではほとんどタイム差は付かず、セクション1を終了した時点でのオーダーはSS2までのまま、1位奴田原、0.8秒差の2位に鎌田、更に4.7秒後ろに勝田となった。
 セクション2はルネサンスのリピートから始まり、棚倉の東側に位置する2ヶ所のステージを2回ずつ走る設定だ。アイテナリ上ではこのクラスはなんとか明るいうちに全SSを走りきる設定だったが、タイムスケジュールの遅れを見越し、ほとんどのクルーはナイトセクション用に補助灯を装着してサービスを出た。SS4はルネサンス。ベストは奴田原、SS3同様タイム差はほとんど無い。ラリー車は給油を経てSS5東野牧野リバース2.67kmに向かった。距離は短いが2004年に出たレコードタイムのアベレージは88.9km/h、ラリー北海道を除けば全日本戦の中でも最もハイスピードの部類に入る。しかしこのSSはフィニッシュ後のリエゾンが通行できなくなったという理由で直前にキャンセルされ、選手は迂回路を通り、更に1時間のリエゾンを経て次のSS6に向かった。SS6、鶴石山8.50kmは初めて使用する林道だ。スタートからほんの少し走ったところからタイトコーナーが連続する低速区間が延々と続き、ゴール間際に短いハイスピード区間が付く。道幅は1車線、低速区間は路面も荒れ、選手は暴れるマシンをねじ伏せることが求められる。ここで上位3台の勝負が動いた。ベストは勝田、1.0秒差に奴田原。2位につけていた鎌田はここでバーストし、上位2台からは1分以上遅いタイムで6番手まで順位を下げてしまった。
 SS7はキャンセルされたSS5のリピート。今度は開設され、ベストは奴田原、0.2秒差で勝田。SSを重ねるたびにこの2台がじわじわと後続との差を広げて行く。SS8はSS6のリピート。すでに日没が過ぎ、完全なナイトステージとなった。ここで更に勝負が動いた。ベストタイムの勝田に対し、奴田原は10.8秒も遅いタイムだ。原因はタービンブロー。これにより勝田がこのラリーで初めてトップに立ち、デイ1のオーダーは1位勝田、6.0秒差の2位に奴田原、35.2秒差の3位に福永修ランサーエボXとなった。
 明けてデイ2は2ヶ所のステージを計5本走る設定。SS9は室大平草5.01km、ごくありふれた雰囲気の中低速コースだ。ここは鎌田がベストで勝田が続く。前の晩のサービスでタービンを交換し、マシンを修復してきたはずの奴田原は今ひとつタイムが伸びない。SS10は三株牧野2.76km、ハイスピードコーナーにところどころヘアピンコーナーが混じる。ここのベストタイムは何と今年17年ぶりにラリーに復帰した大西康弘ランサーエボXだ。先頭走者の勝田は砂利かき役となり4番手タイム。しかし奴田原は12番手タイムとさらに遅れ、勝田との差は11.1秒に広がった。続くSS11はSS9のリピート。ここは勝田と鎌田が同タイムでベスト、奴田原は3.4秒落ちの5番手タイムと振るわない。
 レストホールトでの時間調整を挟んでSS12はSS10のリピート。ここのベストタイムは全日本初出場のアヤベだ。「デイ2はショックを変えた。いい道具を使えば意外と簡単にタイムが出る」とアヤベ。その言葉通り、2日目になってSS10、SS11で連続3番手タイム、トータルでも5位につけている。一方で勝田と鎌田は揃ってシフトレバーが折れるトラブルに見舞われたと言う。奴田原は大幅に遅いという程ではないが、やはりペースが上がらない。最終SS13はSS9の3回目のリピート。ここは勝田がベストで走り、すでにチャンピオンが決まった今シーズンを優勝で締めた。2位は前日の貯金で順位を守りきった奴田原、3位にはベストは無いもののノートラブルで好タイムを並べた福永が入った。
 JN3クラスは14台のエントリー。このクラスは唯一シリーズチャンピオンが決まっておらず、香川秀樹、眞貝知志にチャンピオンの可能性がある。出場の顔ぶれを見ると、香川インテグラ、眞貝インテグラに加え、グラベルを得意とする田中伸幸ミラージュ、曽根崇仁セリカ、若槻幸治郎パルサー、出れば速い上原利宏シビック、唯一の4WD車両となる松原久ブーンX4らによる上位争いが予想された。
 勝負はSS1から動いた。先頭の香川がフィニッシュした後、2番手以降が現れない。優勝候補の一人だった田中がコースを塞ぎ、結局、後続全車にこのクラスで唯一記録された香川のタイムが与えられた。続くSS2、JN4が2回走って荒れた路面のヒルクライムとなれば、強いのは4駆の松原だ。松原は2番手上原に7.5秒差をつけてベスト。3番手は香川。眞貝はフロントデフ破損によりトップから約4分半も遅れてフィニッシュ、そのままリタイアとなり、チャンピオン争いは早くもこのSSで決着がついてしまった。続く2本のギャラリーステージSS3、SS4も松原がベスト、上原がそれに続く。
 キャンセルされたSS5を挟んでSS6、ここをベストタイムでフィニッシュしたのは「こういう道が好き。車も合っていた」という曽根。トップを走る松原は「上りでバーストしてしまった」と3番手タイム。フラットでハイスピードなSS7はこのラリー初めて上原がベスト。2番手は香川と、ホンダ車勢が上位に来た。SS8はまたも曽根がベスト、これでトータル3番手に浮上した。松原が2番手、荒れた路面を手堅く走っている香川が3番手タイム。デイ1の順位は1位松原、「補助灯を忘れてしまった」とSS8だけで松原から12.1秒も遅れてしまった上原が13.9秒差の2位、3位はSS6と8で追い上げた曽根となった。
 デイ2は松原がSS9とリピートのSS11でベスト、SS10 とリピートのSS12は「ようやくセッティングが合った」と明治慎太郎スターレットがベスト、SS13は曽根がベスト。デイ1の上位3台は安定した好タイムを並べ、順位の変動は無く松原がそのまま全日本初優勝を決めた。12.9秒差の2位には上原、わずか3.4秒差の3位に曽根が入った。香川はこの荒れた路面をノートラブルの4位で走りきり、自身初の年間チャンピオンを決めた。
 JN2はすでにチャンピオンが決定している天野智之が欠場したが、今季最多となる11台のエントリー。SS1はバーストの危険を押してウェット用のタイヤを選択した鷲尾俊一スイフトのベストタイムで始まった。続くSS2は相羽博之ヴィッツ、SS3、4は川名賢ヴィッツがベスト。しかしそれぞれ出入りが激しく、ここまでのトップは2番手タイムを4つ並べた中西昌人スイフトだ。しかし中西はSS6でドライブシャフトを破損し、リタイア。鷲尾がここで2番手に13.7秒もの差を付けるベストでトップに立つ。SS7は川名が取ったが、SS8はまたも鷲尾が2番手に12.0秒差のベストタイムで一気にマージンを築いた。デイ1のオーダーは1位鷲尾、2位は33.9秒差で相羽、3位はさらに7.5秒差で川名だ。デイ2の1本目、SS9はまたも鷲尾がベスト。ここまでの40秒近いマージンを持って「最後はペースを落とした」と言う鷲尾が残りのSSを順調に走りきり、今季2勝目を挙げた。2位には相羽、3位には川名が入った。
 JN1クラスは成立しなかった。
<優勝者のコメント>
●JN4優勝ドライバー 勝田範彦
 今回はSS1から砂利かきになると思っていた。奴田原選手、鎌田選手、大嶋選手、岩下選手など速いメンバーが揃っていたので3位以内で十分だと思っていた。足回りのセッティングを変えてきた。毎回変えては本番で戻していたが、今回は決まってSS1からベストタイムがとれ、これでペースがつかめた。
●JN4優勝コドライバー 足立さやか
 いつもより好調なスタートで始まり、これはいつもと違うと思ったが、SS2からやっぱり追う立場に変わり、いつもの展開になった。追われるより追うほうが攻めていける。
●JN3優勝ドライバー 松原久
 このラリーは初出場で、3位以内に入れたらいいと思っていた。ここまで3戦リタイアしていたので、完走したかった。SS2のタイムが良かったので、その後は楽に走れた。デイ1が終わって十何秒かマージンがあったので、デイ2の2本目以降は抑えて走った。この年になって全日本で優勝できるとは思っていなかったのでとてもうれしい。
●JN3優勝コドライバー 香川俊哉
 SS2は全開で行った。前半が上手く走れて、後半は上りだったのでベストタイムがとれたと思う。車の調子も良かった。
●JN2優勝ドライバー 鷲尾俊一
 SS1をウェット用タイヤで走ったらベストタイムだった。これで、行けるのかと思った。車も良く走ってくれた。今シーズン初めて満足いく走りができた。来シーズンはサービスがいるかが問題。来シーズンもヘルプサービスでお世話になれるなら全戦出たいという気持ち。
●JN2優勝コドライバー 鈴木隆司
 最後の2SSはバーストしないように抑えてもらった。
テキスト&写真提供: JRCA