全日本ラリー選手権第7戦 M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズ2010

High Performance Brakes

全日本ラリー選手権第7戦 M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズ2010

DL・PETRONAS・BRIG・VITZメロンブックス DL テイン BRIG・DC2

開催日時:10月15~17日
開催場所:岐阜県高山市
スペシャルステージ本数:14本
スペシャルステージ総距離:105.25km
ラリー総距離:2デイ411.98km
SS路面:ターマック(舗装路)
SS路面状況:ドライ
勝田範彦が貫禄の5勝目で王座奪還
勝田範彦が7位以上でフィニッシュすれば2010年の年間総合チャンピオンが決まる。ハイランドマスターズはまるでターマックを得意とする勝田に味方するような完全なドライターマックで戦われた。開催地は岐阜県高山市。41年前から開催されているこのラリーは長い間過酷なグラベルラリーだったが、2008年からはターマックラリーとして開催されている。このラリーの特徴として、現在全日本ラリーの中では希少となったナイトステージがSS距離の1/3を占めることが挙げられるだろう。標高の高い飛騨高山は昼夜の気温差が大きく、この路面温度の差がターマックならではの勝負を生んだようだ。
ラリーは金曜日にレキを行い、土曜日の午前中にスタート、日曜日の昼にフィニッシュするスケジュールで行われた。SSはデイ1に10本、68.22km、デイ2に4本、37.03km、総距離105.25km。2ヶ所の林道ステージとジムカーナ風のギャラリーステージで構成された。
JN4クラスは12台のエントリー。ポイントランキング順に並ぶレギュラー陣の中にクスコレーシングの炭山裕矢ランサーエボXが割って入る顔ぶれだ。セクション1はSS1駄吉上り6.32kmから始まった。このステージはヒルクライムの印象が強いが、スタートから中盤まではハイスピード区間が続き、全体のアベレージも80km/hを超える。オープニングSSは勝田範彦インプレッサGRBと、ここでの優勝がチャンピオンへの絶対条件となる奴田原文雄ランサーエボXが全くの同タイムでトップ。それを福永修ランサーエボXが0.3秒差で追う。続くSS2も駄吉上り。今度は福永がトップ、0.3秒差の同タイムで勝田と奴田原が並んだ。ギャラリーステージの会場でSS3の前に行われたセレモニアルスタートの時点で、上位3台のタイム差はゼロ。それをこのところ進境著しい高山仁ランサーエボVIIが3秒差で追う。一方で、テストを兼ねて出場したという炭山はなかなかトップグループのスピードについて行けず10.2秒差の5番手。一昨年・昨年と優勝争いを繰り広げ、今年も当然上位に絡むだろうと予想された石田正史ランサーエボXはこの2SSだけでトップと12.5秒差の8番手と大きく遅れ、後にセクション2でオイルラインが破損、出火し、今季5回目のリタイアを喫することとなった。
SS3はギャラリーステージ、高山スキー場0.52km。駐車場の立ち木をスラロームする30秒ほどのSSでもタイム差はつく。ここのベストは炭山、上位3台は福永、0.5秒差で勝田、更に0.4秒差奴田原のオーダーとなった。SS4はSS1、2の逆走となるダウンヒル、駄吉下り6.30km。ここを制したのは、新城ラリーから好調さを見せる杉村哲郎インプレッサGRBだ。福永はスピンしてしまい、杉村の15.0秒落ちのタイムで5番手まで順位を落とした。ここで勝田がラリーリーダーに立ち、奴田原はその直後につける。3番手には好タイムを並べている高山が上がった。リフューエルの後、ラリー車は再びSS5高山スキー場に戻る。ベストタイムはSS3に続いて炭山。奴田原がこの日初めて勝田を上回り、トップが入れ替わった。SS6は駄吉下りの2回目。「スピンして何かがふっきれた」という福永がベスト。勝田は3番時計だったが奴田原を逆転し、再びトップに戻った。
約1時間のサービスとリグループを挟んでセクション2が始まった。時刻は夕方となり、気温も路面温度も下がる時間だ。SS7は3回目の駄吉上り。ここのベストは福永。勝田が続き、奴田原は勝田から2.6秒落ちの5番手タイムで徐々に勝田との差が広がり始めた。SS8は無数河/牛牧14.66km。1時間以上のリエゾンで移動し、この日初めて高山市の西側のステージを走る。すっかり夜になり気温も7度ほどまで下がった上に、レイアウトも全体的にコーナーと直線が入り混じる印象で、ここまで何度も走った駄吉林道とは性格が異なる。このステージで勝田を5.6秒も離す断トツのベストタイムを叩き出したのは、スタート前に「何をやっても失敗する気がしない」と語っていた福永だ。一方、奴田原は「路面温度が下がってタイヤの良さを引き出せなかった」と、福永から12.1秒も遅い5番手タイムに甘んじてしまった。一時は5番手まで順位を下げた福永はこのSSでとうとう2番手まで上がり、最大で12.8秒あった勝田とのタイム差も2.2秒まで縮まった。SS9はSS8のリピート。追い上げられる勝田は渾身のアタックで福永を振り切ろうとするが、ここもわずか0.1秒ながら福永が勝田を上回るベストタイム。デイ1最終となるSS10も福永が勝田を0.2秒押さえ、SS6から5連続のベストタイムで1位勝田と福永の差はほんの1.9秒となった。3番手には、夜に入ってタイムが伸びない奴田原を手堅くかわした高山が勝田と29.0秒差で付け、奴田原は高山と3.5秒差の4番手だ。
デイ2の朝も晴れ。この日のオープニングステージはSS11牛牧/無数河14.70km。朝は冷え込んだものの、このステージ前半を構成する牛牧線は日当たりの良い場所が多く、SSが始まった9時過ぎには路面温度も上がり始めていたはずだ。福永はここでつまづいてしまった。「タイヤの使い方が難しい、廻り込んだコーナーでは待つしかない」と福永。一方の勝田は「ここしか無いと気合を入れた」と福永に6.6秒差のベストタイムで差を一気に8.5秒まで広げた。3位争いは、平凡なタイムに甘んじた高山を、奴田原がセカンドタイムで一気に逆転した。SS12牛牧8.11kmはSS11の前半のリピート。ここも勝田がベストで奴田原が続く。福永と勝田の差は12.8秒まで広がり、福永としてはちょうどデイ1のスピン直後まで勝負を戻されてしまった格好だ。SS13はSS8の前半を使う無数河6.13km。日陰が多く距離も短いこのステージは福永が勝田を1.6秒上回るベストタイムを刻んだが、最終SS14牛牧下りで再び勝田がベストを奪い、勝田がトータル11.7秒差で福永を下し、今季5勝目でシリーズチャンピオンを決めた。2位はJN4クラスでは自己最高位となる福永、3位には奴田原が入った。
JN3クラスは14台のエントリー。シリーズ2位につける田中伸幸が欠場した以外、主な選手は顔を揃えた。ターマック全勝を狙うという眞貝知志インテグラはセクション1から6SS中5SSをベストタイムで走り、新城に続き今回も一人旅の様相を見せる。一方、2番手、3番手争いは筒井克彦S2000、松本琢史ロータス、明治慎太郎スターレット、山口清司レビンらで、めまぐるしく順位が入れ替わる展開となった。シリーズリーダー香川秀樹インテグラは「駄吉が苦手」とタイムが伸びない。セクション1終了時点での順位は1位眞貝、20.1秒差の2位に筒井、更に9.8秒差で3位に山口というオーダーだ。続くセクション2、夜になっても眞貝の快進撃は続き、SS10こそ明治に譲ったものの4本中3本のベストタイムで2位との差を1分10.6秒まで広げた。2位集団では、筒井が夜に入ってタイムを落とした上にリエゾンのミスコースによりタイムコントロールに4分遅着して脱落、松本も「得意ではない」というSS10で遅れてしまった。これにより、デイ1は全体を好タイムでまとめた明治が2位、その15.2秒後ろに3位山口がつけた。
デイ2は松本のスパートで始まった。SS11から13までを全てベストタイムで上がり、明治と山口を逆転し2位を着実なものとしていく。対する明治はこの日最初のSS11からクラス13番手とタイムが伸びず、SS13でとうとうオーバーヒートによりリタイア。前戦に続き上位を争いながらマシントラブルによるリタイアとなってしまった。一人旅を続ける眞貝は安定した上位タイムで走りきり、そのまま優勝で宣言どおりターマック全勝を決め、2位には松本、3位には山口が入った。
前戦で天野智之のシリーズチャンピオンが決まったJN2クラスは7台のエントリー。天野ヴィッツがジムカーナのSS3を除く全SSをベストタイムで走り、2位に1分45.5秒もの大差で優勝し、チャンピオンに華を添えた。2位には青島巧フィットが入った。
JN1クラスは成立しなかった。
<優勝者のコメント>
●JN4優勝ドライバー 勝田範彦
昨日はSS1から3人の争いになり、昼からは福永選手がプッシュしてきて、気がつくと追いつかれていた。自分も気合を入れて走ったが、じりじり追い上げられた。最近無い展開でピリピリしていた。今日は1本目に集中して走った。
●JN4優勝コドライバー 足立さやか
シリーズチャンピオンを感じ始めたのは新城ラリーが終ってから。それまではがむしゃらにやってきた。最初は4駆も初めてで、不安もとまどいもあったが、練習を一緒にやってもらい、ここまで来られて良かった。
●JN3優勝ドライバー 眞貝知志
今回のラリーでは、舗装の全勝を狙った。1秒差でも良いという気持ちでSSを積み重ねていった。ジムカーナのギャラリーSSでベストを取れたのは驚いた。駄吉下りは得意です。ラリー中のコントロールは(コドライバーの)田中さんに全て任せています。
●JN3優勝コドライバー 田中直哉
眞貝選手と出会った頃は、速さはあったが経験不足で、メンタルな面でタイムを落とすことがあったが、今年は強くなった。今年は強く走って生き残ることを目標にした。
●JN2優勝ドライバー 天野智之
ハイランドは一度も完走したことが無かったので、とにかく完走したかった。来る時からダンパーの調子が悪く、SS2の前ですでに壊れていたが、何とか走りきれてよかった。タイヤもサイズを履き分けて、周りと比べながら良い戦いができた。川名選手にいい刺激を受けた。
●JN2優勝コドライバー 井上裕紀子
チャンピオンが決まる前後で違いはあった。余裕があったと思う。ラリー前の準備にも神経質なところが無かったと思う。自分もハイランドを完走したことが無かったので、完走したいという気持ちはあった。表彰式を見に来た両親に良いプレゼントが出来たと思う。
テキスト&写真提供:JRCA